麦焼酎(むぎしょうちゅう/むぎじょうちゅう)は、オオムギを主原料とした焼酎。大分麦焼酎や壱岐焼酎をはじめ、日本各地で広く作られている。
酒としての特徴
原料の麦特有の香りがあり、まろやかで甘味があるとされる。減圧蒸留により製造されたものは香味が軽快、常圧蒸留によるものは香ばしい麦の香りがそれぞれ特徴となり、特に前者は飲みやすくマイルドなことから20世紀後半に日本全国に消費が広がった。水割りやお湯割りなど、多様な飲み方に対応できるとされる。
主原料の大麦は日本を含め広範囲で栽培されて安価でもあるが、下記のように加工や香りに難点があり、20世紀後半まで製造は九州の一部で少量にとどまっていた。大麦は浸水させると急速に吸水が進み、さらに水を切ると表面の水分が内部に吸収されて表面が乾く。この状態で膨潤した麦粒同士が接触すると「しまり」と呼ばれるガチガチに固まった状態になってしまい加工に支障を来し、かつ「しまり」は蒸した後にも起きやすいため、適度な水分管理が米などに比べてかなり難しい。
また、伝統的な常圧蒸留で得られる麦焼酎には強いわら臭や焦げ臭があり、これが強いと渋味や苦味をともなう欠点臭となる。また、リノール酸エチルなどの油分は貯蔵中に酸化されると油臭を放つ。これらが原因となり、1970年代にイオン交換樹脂による精製や減圧蒸留などの技術が導入されるまでは、くせの強さが普及のネックとなっていた。
生産
九州における麦焼酎の県別課税移出数量
2017年度の九州における課税移出数量は145,997キロリットルと、同地域で単式蒸留焼酎のうち38.5%を占め芋焼酎に次ぐ2位となっている。県別では『いいちこ』を製造する三和酒類や二階堂酒造などがある大分県が94,494キロリットルで64.7%を占め、鹿児島県の21,305キロリットル(14.6%)、宮崎県の15,222キロリットル(10.4%)がこれに続く。
大分県は応仁2年(1468年)には『豊後練貫酒』が登場するなど伝統的に清酒の生産が盛んであり、副産物である酒粕を利用した粕取り焼酎も江戸時代には作られていた。しかし1970年代に入ると、全国的な清酒需要の低下と大手メーカーの製品が九州各地にも流通するようになったことが重なり、清酒業者の経営は圧迫されるようになり、二階堂酒造の麦焼酎ヒットに追随して麦焼酎生産に参入する業者が増えた。2018年の時点で焼酎専業および清酒・焼酎兼業の生産者がそれぞれ8社、25社県内にあり、県の全域に分布している。
なお、大分県内では『二階堂』が全県的に強い人気を持ち、『いいちこ』がそれに次ぐ。このほか、八鹿酒造の『なしか』が日田地方、旭酒造の『耶馬美人』が耶馬地方、老松酒造の『田五作』が日田市や大分市、久家本店の『常蔵』が臼杵市や別府市、南酒造の『とっぱい』が国東市や別府市で、それぞれ地元を中心に人気を集めている。
主原料の大麦は乾燥した状態で年間を通じて安定供給されるため、長期保存しにくい生のサツマイモを主原料とする芋焼酎を生産する鹿児島県や宮崎県の焼酎メーカーは、麦焼酎の生産も行うことで通年の設備稼働や雇用を実現しやすい、という経営上のメリットがある。
原料
大麦
麦焼酎の原料には、20世紀後半以降は二条大麦が一般的に使用されている。これは、麦茶などの原料となる六条大麦に比べて下記のような特長があり、麦焼酎の原料として特に適しているためである。
大粒で精麦しやすい
デンプンの含有量が高いため、重量当たりのエタノール生産量(アルコール収得量)が高い
麦麹の製造にも向いている
なお、裸麦や二条大麦を原料としたり、ビールのように麦をローストする製法なども存在する。
大麦の玄麦は、硬度が高いほど精麦時の歩留まりが高く破砕率は低くなるが、醸造特性については硬度が低いほうが溶解性が高く発酵を制御しやすい。この精麦特性と醸造特性の2つが、麦焼酎原料としての大麦の評価指標となる。
使用されている品種
南オーストラリア州の大麦畑
収穫直前の佐賀県の大麦
2010年代には、原料の二条大麦としてオーストラリア産132,000~169,000トン、日本産57,000~68,000トンがそれぞれ毎年使用されている。オーストラリアで約6,500,000トン/年の大麦が生産されるのに対して日本の大麦生産量は約140,000トン/年のため、焼酎生産に必要な量を確保するためには輸入が必須であり、また日本の大麦収穫は梅雨の時期に重なり品質がバラつく可能性も高い点も、オーストラリア産の大麦を使用するメリットとなっている。
2010年代に使用されている品種としては、下記のようなものがある。オーストラリア産の大麦は水分や異物、破粒などの基準で1~3等の規格に分類されるが、日本向けに輸出される大麦の検査平均値は全項目で1等を満たしている。
オーストラリア産
スクーナ(Schooner):南オーストラリア州、ビクトリア州、ニューサウスウェールズ州などで生産
スターリング(Stirling):西オーストラリア州などで生産
グリメット(Grimmett):クイーンズランド州などで生産
アラバリス(Arapiles):ビクトリア州などで生産
日本国内産
はるか二条(農林26号):2012年育成。早世種、短強稗で多収だが倒伏性はかなり強い。アルコール収得量はニシノホシ並に高く、焼酎に甘味と香りが出るとされる。
はるしずく(農林23号):2005年育成。オオムギ縞萎縮病やうどんこ病などへの耐病性が高く、安定多収。オーストラリア産二条大麦やニシノチカラと同等の原料性能とされる。
ニシノホシ(農林18号):1997年育成。前世代のニシノチカラに比べて早生、短秤、多収であり、精麦品質も優れる。麹の消化性、糖化性、総合力価なども高い評価を受けた。
【壱岐の象徴・猿岩】
【全国の月讀神社、月讀宮の元宮】